夜、部屋でテレビを見ている。ときとして、ドラマの終盤だったりする。あるいは、バラエティの終盤だったりもする。はたまた、映画の中盤で、主人公がピンチに陥りそうなところだったりする。ようするに、ちょうど目が離せないところだ。具体的には、9時50分ごろだ。
プルルルル…。電話だ。いいところなのに。だれやっちゅーねん。テレビのほうを向いたまま、電話まで移動。とる。
「はい、もしもし…?」
「もしも〜し…」
女性の声である。言っておくが、今回は勧誘系ではない。もちろん聞いたことがある声だ。
「…誰か、わかる?」
趣味が悪い奴だ。わからないわけないではないか。っていうか、わかんなかったらどうするんだ、てめー。
「はいはい、なに?」
「だから、わたしが誰だかわかる?」
だからわかってるってば。そういう、謎な質問はやめなさい。
「で、なんだよ」
「はぁ…、まあいいや。なんとなくー、でさあ…」
以後、しばしの会話。彼女は近況を話し、ぼくはこっちの近況を混ぜつつそれに相づちをうつ。
あ、誰か言ってなかったな。なにを隠そう、実家からの電話で、妹である。ぼくに似て、変な性格だ、ふう。
しかし、「…誰か、わかる?」の直後に、1秒ほどの空白の時間があったことは、誰も知らない事実なのであった。