時間作戦

単位系というものがある。単位の基本になる取り決めのことだ。現在、一般には、MKS単位系というものが使用されている。というか、使用することになっている。MKSとは、長さの基本単位にメートル(m)を、質量の基本単位にキログラム(kg)を、時間の基本単位に秒(s)を使用するものである。

単位にこれを用いる、と定めたからには、その単位を定義しなくてはならない。非常に微細な物体・時間なども用いられる現在、この定義が曖昧であると、実に困ったことになる。従来は、メートル原器などの基準を用いていたが、これは周囲の条件によって変化が生じ、極めて正確であるとはいえない。現在のこれらの単位の定義には、場所・時期によって変化しないものが用いられている。(ただし、質量の基準は、1キログラムを「国際キログラム原器の質量」と定義している)

たとえば、長さの定義は、光速はどのような場合でも一定であることから、1メートルを「光が真空中で1/299792458秒間に進む距離」と定義する。また、時間の定義は、1秒を「セシウム133原子が基底状態の時の2個の超微準位間の遷移に対応する放射の9192631770周期の継続時間」と定義する。長さの方はまだわかりやすいが、時間の方はもはやまったく意味がわからない。ともかく、このような方法で与えられる時間を原子時として定義し、上記の原理で動作する原子時計によって、時間が管理されている。日本では、この原子時計が郵政省 通信総合研究所 標準計測部 周波数標準課で運用されている。

と、まあ、意味はわからないまでも、厳格に単位が定義されているんだなあ、と思ったのである。

しかし、実際にこれらの単位が用いられはじめたのはずいぶん昔のことである。どんな単位でも人間が関わっているから、人間の勝手で、都合のいいように決まってしまうものである。古い単位ほどそうである。フィートは人の足(foot)の長さだし、インチは手の親指の幅だ。角度に関してはもっと適当で、約数が多く使いやすいからという理由で、直線をなす角度の1/180を 1°としたわけだ。(ちなみに、1キログラムは、4℃の純水の質量を基準に定められた)

それに比べると、メートルの定義は、北半球の子午線(赤道から北極まで)の長さの1/10000000を1メートルと定めたのがはじまりで、地球という天体が基準なぶん、人間の都合が少ない気がする。時間に関してはもっとそうで、1年は地球の公転周期であり、1日は地球の自転周期である。

では、時間の基本単位である1秒はどのように定められたかというと、これはもちろん、角度と同じような理由である。すなわち、カップヌードルをつくる標準時間の1/180であった。あとは、はじめの6つの自然数(1,2,3,4,5,6)の最小公倍数60が便利であるからという理由で、60倍して1分、さらに60倍して1時間、そして、それを24倍すると自転周期である1日となる。というわけで、1秒は1日の1/86400となっている。

ところで、実際には、地球の自転周期は正確には23時間56分4秒0905であり、公転周期は365.2422日である。すなわち、1日24時間、1年365日からのずれがある。というわけで、4年に1回、1年が1日多いうるう年とし、100年に1回はうるう年とせず、400年に1回はうるう年とする、という決まりが、現在の太陽暦にはある。

さらに、実際には原子時とのずれを補正するため、不定期にうるう秒が挿入されるが、これについて気がつく人はそうそういない。これは、…59秒→0秒→1秒…と進むところを、…59秒→60秒→0秒→1秒…と通常は存在しない60秒というのを入れて調整するらしい。

と、こういう話は、本来2000年2月29日ごろにするのがよかったとは思うのだが、それはまあ、停滞期の話であることであって…。ともかく、本題はうるう年の話ではない。

ご存知の通り、日本の標準時は、東経135度の兵庫県明石市にある。この東経135度の子午線上で太陽が南中する時刻を正午としているのである。しかし、兵庫県を日本の中央というには少しばかり西に寄っている。たとえば東京では、およそ東経140度であるから、太陽の南中する時刻は約20分ほど早くなるのだ。

そこで、日本のある巨大な組織が、少しずつ、標準時を東に移動させる計画をスタートした。最近のテレビ番組表を見て欲しい。54分に始まる番組が増えてはいないだろうか? なにしろ、天下の「ニュースステーション」がそうである。これで6分間ほど世の中が早くなりはじめているのだ。東に標準時を移動する、その計画の一端をここに垣間見ることができる。

今からでも遅くはない。お昼の砦、「笑っていいとも!」と「おもいっきりテレビ」が、11時54分に始まってしまう前に、この狂気の計画を止めなくてはならないと思うのだ。

ちなみに、6分間というと、経度にして1.5度ほど東、だいたい三重県から愛知県あたりである。さすが、愛知の人間はやることが派手だぎゃあ。

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