夏はサンダル

ここ数ヶ月来、毎日サンダルを履く環境である。研究室が引っ越しして以来であるから、もう2ヶ月あまりであろうか。新しい研究棟のわれわれのフロアでは、土足禁止がルールとなっており、研究室に入るためには、上履きを履かなくてはならない。エレベータを降りるとそこに靴箱が用意されているわけだ。むろん、来客用にはスリッパが用意されているのだ。ちなみに、ここのフロアにはふたつの研究室があるのだが、うちのボスであるところの S教授は無駄な対抗心を持っているのか、うちの研究室側の来客用スリッパは、隣のものよりも少しばかり高級品を用意したらしい。…ったく。

エレベータホールに降り立つと、まずは靴を脱ぎ、靴箱に常置しているサンダルに履き替える。僕のように凝った靴を履いちゃう人間にとっては、面倒なこと極まりない。それこそ夏だし、なんか外用のサンダルをゲットしなくてはと思ってしまう。未だ買ってはいないのだが…。

さて、研究室に行き、自分の席につき、PCの電源を入れ…、暑いのである、足元が。そりゃ、靴を履くためには靴下を履くわけであるから、当然なのではあるが。で、脱いじゃうのだ。やはり、サンダルには素足だ、男も女も素足なのだ。うひゃ。

研究室にいるあいだ、というか研究室のフロアにいるあいだ、要は外に出ないかぎりは、これが基本スタイルである。リラックスできるし、涼しいし、やっぱり夏は素足にサンダルだ。

はたして、中学・高校と校内履きはサンダルであった。うちの中学・高校は、昇降口でサンダルに履き替え、教室に入ると校内着に着替える。制服は、登下校と式典でくらいしか着ないのだ。ちなみに、昇降口の靴箱にはふたがないので、ラブレターがドサッなどという学園ドラマさながらのことは起こらないので、期待しないように。っていうか、その前にうちは男子校だ。

このサンダルというのは、なかなかいい選択である。中学や高校では、上履きがふつうの靴の場合が多い。靴というものは蒸れやすい。臭いの温床である。サンダルであれば、通気性抜群で、水虫とも無縁だ。また、中学高校時代の靴というのは、踵を潰すという無作法の温床である。サンダルであればこれは不可能である。なんとすばらしい。踵潰しに生徒指導が目を光らせる必要もないのだ。

ちなみに、校内は基本的に土足OKであった。教師のほとんどは靴で歩いていたし、外来の客も土足であった。また、前庭(アスファルト張り)での朝礼では、サンダルで整列であった。むろん講堂は板張りなので、サンダルでは入れないのではあったが。要するに、校内で生徒は踵潰しをすることができないのであった。そして登下校は制靴=革靴であり、学校は山の上、坂道を革靴の踵を潰してというのは、やはり無茶な話である。無作法は物理的に排除された空間であった。

というわけで、校内では、このサンダルでもってなんでもやっちゃうのである。

授業時間…。某英語教師 I氏は、サンダルの、しかも生徒のサンダルの愛用者であった。宿題を忘れると、サンダルでもってケツをひっぱたくのである。めっちゃ痛いっちゅーねん。しかも自分のサンダルなのであった。痛いっちゅーねん。売店販売のオフィシャル(?)サンダルはゴム製なのだが、新品はけっこう硬い。ってことは痛い。しばらく履いているとしなやかになるが、かなり古びてくるとゴムが硬化し、また痛い。このヤロー、体罰教師め。しかし、女子校の生徒には人気があるのだった。いや、私も嫌いではなかったぞ。授業は面白かったし。

余談だが、こういう罰関係では、なかなか面白い教師が多かった。某外国人英語教師は、宿題を忘れると腕立てふせであった。また、某国語教師は、朗読で3回ミスを犯すと、出身小学校の校歌斉唱であった。中には毎授業ごとに間違ってしまう輩がいて、クラス全員が彼の小学校歌を歌えてしまう、というのもあった。

さて休憩時間…。中学生徒は外に出て遊ばなくてはならない、という決まりであった。基本は前庭で、バスケットボール(コート2面=ストリートバスケ4ゴール&ゴールを狙う数チーム入り乱れての対戦⇒ボールとボールの衝突によるシュート失敗&恐怖のリバウンド合戦)をやるか、バットは使えないのでゴムボールで手打ちの野球である。いつしか彼らは学ぶ。手で打つよりも、サンダルで打ったほうが、よく飛ぶ。というわけで、サンダルはバットに変貌するのだ。

バスケをやっている輩としては、当然、バッシュを履いた方がいいのだが、休憩時間は10分。履き替える時間も惜しい。特に授業開始にまにあわないのは却下である。というわけで、高度なサンダル走法が自然と身につくのである。なにしろバスケットボールだ。走り、止まり、方向を変え、飛び…、これをサンダルでやれば、自ずからサンダル走法の有段者となるであろう。

「廊下を走ってはイケマセン」これはたいていの学校で規則となるであろうものだ。そして、決して守られないもののひとつでもある。サンダルでは走りにくいだろうって?そんな甘いことを言ってはいけない。サンダル走法では序の口である。基本は、親指に力を込め、踵部分が離れないようにすることである。こうすればサンダルが脱げてしまうことはない。無停止での衝突回避、最低限の減速による方向転換、そして教師を発見した場合の急制速などは基本的技術である。さらにレベルが上がると、サンダル特有のパタパタ音さえ消し、忍者並みのスピードと静かな走行、あるいは壁の垂直登攀から、天井の神速走行まで可能となる。

このようにして培われた技(ワザ)を、サンダル走法学院流 と呼ぶ。我が高校では、この流派のマスターたちを毎年百数十人ずつ、各地の大学に送り出しているのだ。おそろしいことである。

Copyright © 1999-2001 tetsuya / stonefield's office