その日はニュースがなかった。
情報社会といわれて久しいこの現代、様々な刺激に満ちたニュースが一秒ごとに生み出され、世界中に配信されている時代に、このような日が来るとは誰も考えていなかった。
しかし、報道局はそんなことを言ってもいられなかった。このままでは夕方の番組に流すニュースがない。そんなことは、目的と手段を履き違えていると言われようとも、すでに許されないことだった。そこで、急遽、隠密に会議が開かれた。小説家、脚本家、放送作家、評論家、映画監督……など、話を創ることに長けた人々が集められ、さらに各界の実力者、そしてニュースキャスターも参加した。
「実は、今日のニュースがないのです。しかし、そういうわけにもいかないので、みなさんに提案していただきたいのです」
「また首相に失言させるか?」
「そんなの、もう国民は飽ききっているよ」
「ここはひとつ、流行のネット犯罪でいこうか?」
「誰もが自分には関係ないと思っているさ」
「そもそも、なんで犯罪じゃなきゃいけないんだ?」
「犯罪じゃなきゃ、注目されないだろ」
「それもそうだな、他人のいい話なんて聞いても、誰も嬉しくないしな」
「やっぱり犯罪といったら殺人事件かな?」
「ただの殺人事件じゃ、もはや誰も注目しないだろ」
「少年事件にしておこうか」
「しかし、いまさら、という気もするがね」
「中学生の猟奇殺人なんていうのも、数年前にやってしまったし」
「少年犯罪なんて、もはや誰も本当に驚きはしないさ」
「こうなったら戦争でいくかね?」
「日本人にか?隣国のミサイルにさえ驚かないんだぞ?」
「それもそうだな」
「……」
その日はニュースがなかった。
いや、事件がなかったのではない。あまりにも惨澹たる事件の多い中、人々の事件に驚くという感情がなくなっていたのだった。