なかった日

Column for Document Analysis

その日はニュースがなかった。

情報社会といわれて久しいこの現代、様々な刺激に満ちたニュースが一秒ごとに生み出され、世界中に配信されている時代に、このような日が来るとは誰も考えていなかった。

しかし、報道局はそんなことを言ってもいられなかった。このままでは夕方の番組に流すニュースがない。そんなことは、目的と手段を履き違えていると言われようとも、すでに許されないことだった。そこで、急遽、隠密に会議が開かれた。小説家、脚本家、放送作家、評論家、映画監督……など、話を創ることに長けた人々が集められ、さらに各界の実力者、そしてニュースキャスターも参加した。
「実は、今日のニュースがないのです。しかし、そういうわけにもいかないので、みなさんに提案していただきたいのです」
「また首相に失言させるか?」
「そんなの、もう国民は飽ききっているよ」
「ここはひとつ、流行のネット犯罪でいこうか?」
「誰もが自分には関係ないと思っているさ」
「そもそも、なんで犯罪じゃなきゃいけないんだ?」
「犯罪じゃなきゃ、注目されないだろ」
「それもそうだな、他人のいい話なんて聞いても、誰も嬉しくないしな」
「やっぱり犯罪といったら殺人事件かな?」
「ただの殺人事件じゃ、もはや誰も注目しないだろ」
「少年事件にしておこうか」
「しかし、いまさら、という気もするがね」
「中学生の猟奇殺人なんていうのも、数年前にやってしまったし」
「少年犯罪なんて、もはや誰も本当に驚きはしないさ」
「こうなったら戦争でいくかね?」
「日本人にか?隣国のミサイルにさえ驚かないんだぞ?」
「それもそうだな」
「……」

その日はニュースがなかった。

いや、事件がなかったのではない。あまりにも惨澹たる事件の多い中、人々の事件に驚くという感情がなくなっていたのだった。


Column for Document Analysis
「ドキュメント解析」講義のためのコラム(テーマ「ニュース」)
めずらしく(?)ネタが浮かばない…という状況に陥り、前日17時までというメール提出の〆切に間に合わず、 当日に自ら印刷して持っていくということになってしまった。 そもそも、前回の終わりにディスカッションチーム内でのコラム提出担当になっていたので、 書かざるを得ない、という状況だったのだ。 書けと言われると、なかなか書くことのできない性格であるらしい。 本職(プロ)のモノカキには向いていないね。
さて、今回のコンセプトは、「ネタ」よりも「批判批評つき」ということを重視しよう、なのだ。 詳細は、「ニュース」のほうを参照していただきたい。 結局のところ、言いたいことはなにかっていうと、最後の一文だけなのだが。
結果は…
わーい!ベストコラム(見事に2回目)であります!
なんだかんだ言っても、書けと言われて苦しんでヒネリ出したもののほうが、 評価されるらしい。(第0回「最近のびっくり」もそうだったし…) 実は、本職のモノカキに向いているとか?(←それはない)

なにやらいろいろとコメントをもらいました。
「マスコミ批判なのか?」
 全く無いとは言わないけれど、むしろ「驚くという感情がなくなって」のほうを主張したかった。
「星新一のようだった」
 なるほど、それはあるかも。星新一は結構読んだし。あとは筒井康隆とか、要はブラックユーモアが好き。
「ニュースってなんだろうと考えた」
 それは思ったなあ。ここで詳しく意見を述べるには紙幅が足りないですが…。

それにしても今回はテーマが難しかった様子。いつもは10本を超えるのに、今回は8本であった。
さてと、次はグランドスラム(全チームで1位)を狙え!(←絶対無理)
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