そのころ、人類は未開から文明への一歩をやっと踏み出そうとしていた。これは地球から数千光年ほど離れたある惑星での話である。
その惑星に住んでいたのは人類とは似ても似つかない生物ではあったが、しかし、体を持ち、心を持ち、思考する者たちであり、独自の文明を築いていた。しかし、多くの文明がそうであるように、その文明もまた、頽廃の時期を迎えていた。その星の住人たちは、自分たちこそ最高の生物、唯一の知性と信じて疑うことを知らず、文明を謳歌し、資源を浪費し、贅沢を満喫し、享楽のかぎりを尽くして、自省することはなかったのである。
無論、そのような者たちばかりではなく、この享楽主義に警鐘を鳴らす者もいないわけではなかったであろう。しかし、いつの時代、どこの世界においても、彼らは少数派であり、その言葉に耳を傾けようとする者は、ほとんどいなかったのである。
彼らの世界に宗教や神が存在していたかは知る由もないが、ある時、天罰とも言うべき惨事がその惑星を襲った。太陽たる恒星が爆発し、惑星のすべては焼き尽くされ、その世界の歴史は終焉を迎えたのである。
その恒星の最期の光は、数千年の旅の後、銀河系の片隅の小さな青い惑星に達し、ある粗末な厩の上で燦然と輝く星として人々の目を引き寄せた。後に神の子あるいは救世主と呼ばれる嬰児の誕生を知らせたその光は、彼の生まれる数千年も前に、遠い惑星のすべてを絶滅せしめた地獄の業火として発せられたものだったのである。
彼の誕生の知らせのついでに地獄の業火が生まれたのか、それとも地獄の業火のついでに彼の誕生が知らされたのか、そのどちらが真実なのかを知るものは、未来永劫、神自身よりほかにはいない。