大学院講義「ドキュメント解析」と連動して、約4ヶ月にわたってお送りしてきたこのシリーズも、とりあえず最終回をむかえるに至ったのである。最終回は、テーマなし、フリーテーマ、ということである。
よくよく考えてみると、講義でテーマ(あるいはネタ)が提供されていたから、このシリーズが始められ、そして続いてきたのである。テーマが与えられないとなると、「ドキュメント解析」シリーズとして微文積文を書く意味は実はないのだ。通常モードで十分である。そういうわけで今回は、「講義が終わったので、シリーズも終わります」と報告するのみで終わりにしたいと思う。
…と思ったのだが、実は最終回に提出してしまった作品があるので、これを載せないわけにはいかないのではないかという気もする。というわけで載せる。またもや焼き直しなのである。しかたがない。ストックからの放出というつもりなのだから。
勝負 II
世の中というやつは、すべからく勝負をするようにつくられていて、そういう世の中に住んでいる我々も、勝負観念というものを先天的に持っていると言わざるを得ない。
勝負というと対戦相手を考えずにはいられないが、実のところ、自分自身との勝負というのが最も厳しいのではなかろうかとも思う。戦士は自分、審判も自分。いつでも逃げられるからこそ、自分の中のプライドを賭けて闘うことになる。そう、誰しも経験があるのではなかろうか。家に帰るまで、ひなただけを踏んで帰る、というやつである。
いや、「踏んで帰る」くらいではいけない。「踏んで帰らなくちゃいけない」という決心が必要である。そうでないものは、戦士としてのプライドに欠けているのだ。
もちろん、戦士の「負け」は、すなわち、即時の「死」につながる。イメージとしては、ひなたが陸で、日影は海、そして、ひなたと日影の境界は、断崖絶壁なのである。油断は禁物なのだ。
スタート直後は、快調である。もちろん、ときとして電柱が突っ立っていて、小さな彼にとっては大きな一歩を必要とするかもしれない。しかし、それくらいの困難は、冒険にはつきものである。
ところが、突如、目の前に敵が現われた。向こうから車が迫ってくる。車の影が迫ってくる。まずい、これに飲み込まれてしまったら負けだ。死んでしまう。えい、渾身の力で跳びあがる。着地したとき、車は既に後ろであった。こうして、彼は迫りくる敵から逃れたのである。
その後、フェンスの穴のところだけをバレリーナのような足どりで通り抜け、カーブミラーの反射光が道路に当たったところを使って影だらけの曲がり角を通り抜けるという難関を通りぬけた後、もう少しで家にたどりつくというところまでやってきた。そこで最後のピンチが訪れたのである。
先ほどは前方からやってきた車であったが、今回は後方からであった。普段ならば気がつかなかったであろうが、今の彼は、周囲の敵に敏感な戦士である。迫りくる咆哮を頭の片隅でとらえ、振り返り、こうなれば、敵の攻略はもはやお手のものだ、タイミングを合わせてジャンプ! そして、着地したとき、彼は、死んだ。
「おかえり……って、あんた、なにやってるの?」
彼の息の根を止めたのは、買物から帰ってきた母親が止めた車なのであった。彼の勝負は、そこで、あっけなく終わったのである。しかし、彼に教えてあげなくてはならないことがある。彼の勝負は始まったときから終わっていたのだ。彼の靴の直下は、常に、いつでも、日は当たらない、つまり影なのである。
ホントにそのままである。冒頭部分をそれなりに書き換えただけで、残りの部分はコピー&ペーストでつくったし。こんなことが許されるのか、というと、やはり自分のネタ帳からとってきたようなものだから許されるのであろう。
それはそうと、実は冒頭部分で苦労したのである。「勝負」のときには、はじめに勝負というテーマありき、のち内容、だったから、楽に導入できたのだが、今回は何もないところから勝負の概念を出してこなくてはならない。こまった、それほど器用ではないのである。結局、いきなり本題につっこむといういつものスタイルをとらせてもらった。その結果、文章がいきなり大上段に振りかぶったようなかたちになってしまい、かなりどうか、と思ったのだが、講義のマネージャ的には、この大袈裟な導入と、ばかばかしい内容のミスマッチがよかったそうである。「ばかばかしい」とは失敬な…こっちは大真面目(?) なのに。
はたして、結果は芳しくなかったのであった。またもや下位に甘んじてしまった。結論としてわかったのは、「やはり乱入はだめらしい。追いつめられたときの作品のほうがよいらしい」ということであろうか。
いや、実のところ、もしかしたら…と思うことがある。既に公開されていたものだったから、という理由はありえないだろうか。たしかに「微文積文」は小さな個人的ウェブページのひとつに過ぎないし、人気サイトとはほど遠い。しかし、もしも、ということがある。疑問は確認すべきである。
現在、もっとも使える検索サイトは、Googleであろうと思う。ここで検索するのだ。「ドキュメント解析」と。そら見たことか。本講義のオンライン・シラバスが当然ながら上位に来るのだが、すぐ下には、「微文積文」内のページがいくつか表示されてしまったではないか。
もし、Googleがまだメジャーでないというのならば、gooならばどうか。「ドキュメント 解析 雑文」と。ほらやっぱり。なんと1位に来てしまったではないか。おそるべし、検索ロボット。
ここまでヒットされると、この作品のもとネタがまったくチェックされていなかったという可能性はゼロではなくなるのではなかろうかと思うのである。あー、そこ、自意識過剰だなんて、そんなことを言わないでくれたまへ。
まあ、この予想(というか妄想)は大袈裟だとしても、今後、「ドキュメント解析」などというキーワードで検索する人間がどのくらいいることだろう。そして、運悪くこのページに辿りついてしまう人がどのくらいいることだろう。そう考えると、「ネタ人間の自己顕示」というのもなかなかに楽しいことではなかろうかと思うのであった。
って、こんなので恥ずかしくないの?とかいう気もするのだが。